NSAの収集態勢と協力する企業・国々

 NSA/UKUSAによる強大なシギント収集能力を支える収集拠点数と、これを可能としている協力企業と協力国について見てみたいと思います。

1 世界を覆うシギント収集拠点の数

 NSAは、情報収集能力に関しては、米国No1のインテリジェンス機関であり、UKUSAシギント同盟は世界最強のインテリジェンス同盟です。 例えば、「Teixeira漏洩情報に見る米国のインテリジェンス力」(2023年4月掲載)でも紹介しましたが、2023年春に、テシェイラというマサチューセッツ州の空軍(インテリジェンス部隊)州兵が、インテリジェンス情報を多数漏洩しました。漏洩情報から分かることは、先ず第1に、米国は膨大なインテリジェンス情報を保持していることです。具体的には、ロシア・ウクライナ戦争に関連する両国の詳細な動向、それにエジプト、韓国、インド、ブラジルなど他の諸国の対応に関する機微な情報を把握していました。更に、同戦争とは別に、中国やイランの動静についても多くの機微な情報を入手していたことです。第2に、この漏洩情報の約7割程度はシギント情報であり、米国インテリジェンス全体において、NSAのシギント情報の重要性が理解できます。また、ロシア政府やウクライナ政府の内部の通信システムにも浸透して、相当のシギント情報源を保持していたことも注目されます。

 それでは、このようなNSAのシギント力を支えるシギント収集の施設やシステムは、世界全体でどのくらい設置されているのでしょうか。  この点について、オランダ人でNSAについての第1級の研究者であるペーター・コープ氏によれば、収集施設や収集システムは全部で約500あるそうです。NSAには「シギント活動識別符号」(SIGINT Activity Designators、通称SIGADs)というものがあります。これは、シギント収集活動の施設やシステムのための識別符号で、個別の施設やシステムを数字とアルファベットで表示した符号です。施設やシステムは改廃があるのですが、コープ氏は2013年のスノーデン漏洩情報などを分析して、その時点で活動中のSIGADsが504個あると結論付けました。つまり、全世界に504の収集施設やシステムが存在しているということです。因みに、戦後設置され必要性が低下して廃止された施設やシステムはこの他に約500もあるそうです。

2 収集に協力する企業と国々

 これらの世界を覆う多数のシギント活動施設やシステムは、いくらNSAが巨大でも単独で設置できる訳ではありません。NSAに協力する組織、つまり、民間企業や協力国があるから、可能となったのです。それを見てみましょう。

(1)民間企業の協力~「特別資料源作戦(SSO)」

 NSAは、その任務の内、攻撃(シギント)と防御(サイバーセキュリティ)両面において、主要な世界的企業からの協力を得ており、2013年のスノーデン漏洩資料によれば、その数は80社を超えています。NSAの漏洩資料に会社名が挙げられていたのは、マイクロソフト、インテル、IBM、オラクル、ベライゾン、ATT、シスコ、モトローラ、ヒューレット・パッカード、その子会社のEDS、クアルコム、キューウエストの12社です。業種も多彩であり、通信・ネットワーク提供事業者、ネットワーク・インフラ事業者、サーバーや端末機器企業、システム運用会社、セキュリティ会社、ソフトウェア企業等多岐に及んでいます。

 このような民間企業との協力の内、NSAの攻撃面、即ちシギントの資料収集で協力を得る作戦が、「特別資料源作戦」(Special Source Operation:SSO)と呼ばれています。シギント資料収集でNSAに協力している企業は判明しているだけで、ベライゾン、ATT、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、メタ(フェイスブック)、パルトーク、ユーチューブ、スカイプ、AOL、アップルなどがありますが、この他にも数十社が協力していると見られます。

 特別資料源作戦も多岐に及び、その全貌までは明らかになっていませんが、特に注目を集めたのが、後述する「プリズム」計画と基幹通信回線へのアクセスです。「プリズム」計画は米国内での協力ですが、通信基幹回線へのアクセスでは、米国内のみならず、米国外における協力もあります。

 これらの結果、「特別資料源作戦」は、NSAの収集データの内、コンテンツ情報の60%、メタデータの75%近くを占めるなど、極めて貴重な情報源です。そのためNSAの「宝冠」(crown jewel)と呼ばれているそうです。

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(2)セカンド・パーティ、UKUSA諸機関の協力

 UKUSAシギント同盟については、「『UKUSAシギント同盟』とは?』(2023年3月掲載)で紹介しましたが、次の5ヵ国5機関の特殊な協力関係です。米国NSAは、シギント同盟の他の4ヵ国の4機関を「セカンド・パーティ」と呼んでいます。

〇 米:国家安全保障庁NSA:National Security Agency

〇 英:英政府通信本部GCHQ:Governmnet Communications Headquarters

〇 加:通信安全保障局CSE:Communications Security Esatablishment

〇 豪:豪信号局ASD:Australian Signals Directorate

〇 NZ:政府通信安全保障局GCSB:Government Communications Security Bureau

 これら5ヵ国の協力関係は、第二次世界大戦中の米英のシギント協力に起源を持っていますが、大戦が終結しても協力関係は停止されることなく恒常化されました。これら5機関はNSAの部内資料では「五つの眼」(Five Eyes,FVEY)と示されることが多いのですが、その協力関係は極めて密接であり、単なる情報交換というようなレベルではありません。共同の収集分析、或いは統合運用と言えるレベルの協力関係となっています。

 この関係があるため、NSAはセカンド・パーティ諸国やその海外領土を収集拠点として使用できるのです。つまり、英加豪NZのシギント諸機関が自国領土に設置した拠点からの収集データを入手することができる他、英加豪NZにNSA自体の収集拠点も設置することが出来るのです。例えば、英国北部の北ヨークシャ州にある「メンウィズ・ヒル英空軍基地」は、実際はNSAの衛星通信の巨大傍受施設として運用されています。また、英国の海外領土がある地中海のサイプラスにある英軍基地や、英国の政治的影響力が強い中近東のオマーンにも英国の施設があり、シギント・データの収集拠点となっています。

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(3)サード・パーティ~Give & Takeの協力関係

 サード・パーティとは、NSAが個別に協力関係を持っている諸国のシギント組織です。二国間の協力関係ですから、その内容や親密度はそれぞれの国によって異なっています。この二国間関係で、NSAが最も重視しているのが、重要標的通信に対するアクセスであり、そのための地理的な利点の活用です。NSAは、自らの国内外の収集拠点、民間企業の協力による収集、セカンド・パーティ諸国の協力による収集拠点に加えて、サード・パーティ諸国の協力によって、更に広汎なシギント収集態勢を構築しているのです。

 2013年のスノーデン漏洩資料によれば、その時点でのサード・パーティ諸国は、次の33ヶ国です。

【欧州】独、仏、伊、西、蘭、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、ポーランド、チョコ、ハンガリー、クロアチア、ギリシャ、マケドニア、ルーマニア

【アジア】シンガポール、韓国、タイ、インド、日本、台湾、パキスタン

【中東・アフリカ】イスラエル、トルコ、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、チュニジア、エチオピア

 ところで、2013年に漏洩されたNSA渉外局の極秘資料によると、NSAにとってアジアで重要な協力国は、シンガポールと韓国だそうです。つまり、NSAにとってアジアでシンガポールと韓国が最も重要なシギント・データを提供している国ということです。それでは、両国はどのようなデータをNSAに提供しているのだろうかと、漏洩資料を見ていくと、通信基幹回線からのデータ収集の拠点が両国にあるようです。つまり、両国は通信基幹回線からデータを収集して、それをNSAに提供していると推定できます。貴重なシギント・データを大量に提供できる国が、NSAには評価されるということでしょう。日本が重要な協力国と評価されていないのを意外と感じる方がいるかも知れませんが、少なくとも2013年の時点ではそう評価されていたのです。

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3 シギント・プラットフォーム類型

  (参照:NSA・UKUSAのシギント・プラットフォーム

4 多国間協力枠組

 シギント活動は極めて秘匿性が高いために、UKUSAシギント同盟の他には、多国間の協力枠組はそれ程多くはないですが、2013年のスノーデン漏洩資料によれば、次の枠組が存在しています。

〇 SSEUR(欧州シギント首脳会議):UKUSA5ヵ国の他、欧州の9ヶ国、独、仏、西、伊、蘭、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンが参加しています。

  SSEURは、1982年、当時のソ連に対するシギント活動の効率化のために開始された協力枠組であり、SIGDASYS(Sigint Data System)と呼ばれる一定のシギント・データ共有のためのシステムを構築していました。このシステムは1990年から91年の湾岸戦争で効果を発揮したそうです。

  また、SSEURにはテロ対策連合(CT coalition)というテロ対策の下部組織が設置され、半年毎に協議会合が開催されていたそうです。我が国では余り知られていませんが、国際テロ対策では、端緒情報の把握などで、シギントは極めて大きな役割を果たしており、シギントの多国間協力枠組のなかにテロ対策部会があるのは納得できます。

〇 SSPAC(太平洋シギント首脳会議):UKUSA5ヵ国の他に、更に、欧州及びアジアの5ヵ国が参加しています。5ヶ国とは、韓国、シンガポール、タイ、仏、インドです。フランスがメンバーになっているのは奇異に映るかも知れませんが、ニューカレドニアなど南太平洋に海外領土を保持しているためでしょう。また、これに日本が参加していないのが注目されます。少なくとも、2013年時点では、日本は東アジアにおいてシギント面では主要国とは見做されていなかったということです。なお、協力枠組の目的と詳細な活動内容は不明です。

 多国間枠組には、以上の他に、軍事作戦を前提とした次の協力枠組もあります。

〇 NATO(北大西洋条約機構)には、NATOとしての軍事作戦のために、シギント情報を共有するための枠組があるようです。軍事作戦の遂行ではタクティカルなシギントが必要ですから、当然のことだと思います。

〇 AFSC(アフガン・シギント連合):アフガニスタンは、2001年に米国が軍事侵攻をして以来、2021年まで同志国の軍隊も派遣されていました。この間のシギント協力のための組織で、前述のSSEURと同一でした。

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