サイバー安全保障・政府有識者会議の有識者の重大な事実誤認(FBIによる通信傍受について)

(1)サイバー安全保障に関しては本年6月、内閣官房に「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」が設置され検討が進められています。その会議の状況は内閣官房のウェブサイトで公開されています。

 そこで、公開されている議事録と資料を読んでみますと、有識者会議のテーマ別会合6月19日)で、有識者の一人が、FBIによる通信傍受について、根幹に関わる重大な事実誤認の発言をしています。このような誤解が拡散すると困るので、ここで誤りを指摘しておきます。参照:有識者会議第3回の資料5-7「通信情報の利用に関するテーマ別会合(第1回)」議事要旨(6月19日)

(2)問題の発言は、議事要旨7頁19行目です。即ち、有識者が「FBIが主に国内で犯罪に対処するために通信を傍受しているが、インテリジェンスとは少々異なる法律に基づくものだ。」と発言しています。この有識者は、FBIによる通信傍受は、犯罪捜査のための司法傍受のみであり、インテリジェンスとしての行政通信傍受はしていないと理解しているようです。

(3)FBIによる通信傍受には、犯罪捜査のための司法傍受と、インテリジェンス(国家安全保障)のための行政傍受の2類型があります。その前提として、そもそもFBIの行うinvestigationには、criminal investigationとnational security investigationの2類型(即ち、司法警察活動と国家安全保障のための行政調査活動)があり、national security investigationとはインテリジェス活動です。そして、後者を担当するのがFBIの国家安全保障部門です。

 FBIによる米国内における行政通信傍受の根拠法は、FISA(対外諜報監視法)ですが、FBIもNSAもCIAも、米国内ではこのFISAにもとづいて行政通信傍受をしているのです。特にFISA第1章などは正にFBIが頻繁に通信傍受に使用している条文です。FBIが行政通信傍受をしていないなどとは、到底言えません。

(4)更に、インテリジェンス活動について規定した基本的な行政命令である大統領命令第12333号「米国諜報活動」では、明確にFBIをインテリジェンス機関として規定しています。実際、米国では、FBI(国家安全保障部門)は、米の諜報コミュニティ18機関の中でも主要6機関の1つに位置付けれられているバリバリのインテリジェス機関です(他の5機関は、CIA、NSA、NGA、DIA、NROです)。

(5)発言をした有識者は、FBIを単純な捜査機関と位置付けて考え、インテリジェンス機関でもなく、インテリジェンス活動もしていないと誤解しているようですが、この誤解は通信傍受の議論では、致命的な誤解です。 この発言が議事録に記載されているという事実は、当該有識者の発言の誤りを指摘する他の有識者又は事務局員がいなかったということでしょうか。仮にそうであるならば困ったことです。

参考:2024年2月26日付トピックス「米国における行政通信傍受の法的構造」

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