米軍によるフォルド他イラン核施設攻撃

 2025年6月22日未明、米軍は「真夜中のハンマー作戦」を実施して、イランのフォルド、ナタンツ、イスファハンにある核施設を攻撃しました。 B-2爆撃機7機が、米国本土から往復36時間2万キロを飛行して、フォルド施設とナタンツ施設に超大型貫通爆弾を投下し、また、潜水艦からトマホーク巡航ミサイルをイスファハン施設を標的に発射したのです。 本作戦については、6月22日と26日、ヘグセス国防長官とケイン統合参謀本部議長が共同記者会見を開いています。ヘグセス国防長官の発言には政治的配慮が影響している可能性があるので、ケイン統合参謀本部長の発言を基に本作戦の実態を見てみます。

 ケイン統合参謀本部議長の発言で特に注目されるのは次の点です。「初期的な戦闘損害評価によれば、3施設とも極めて重大な損害と破壊を被っている。」「本作戦は、わずか数週間の準備期間で実施されたが、米軍の比類のない作戦能力と広範囲な展開能力を示すものであり、世界の如何なる軍隊もこれを成し遂げることは出来ない。」(22日)。「世界中の我々の敵対勢力は、フォルド担当チームと同様に、他のチームが、時間をかけて標的を研究しており、今後も研究を続けるということを知っておくべきである。」(26日)。これらの発言からは、米軍は本作戦の成果について相当の自信をもっていることが伺われます。 なお、本作戦は軍事作戦ですが、同時に米軍による標的設定のインテリジェンス作業の実態が分かるのでここで紹介します。

1 「真夜中のハンマー作戦」全般(主として22日の記者会見)

 米国東部時間2025年6月20日深夜から21日朝にかけて、B-2爆撃部隊が米本土を離陸した。部隊はB-2爆撃機7機で構成され各機2名合計14名が搭乗した。イラン上空に達するまで、約18時間の飛行時間であったが、この間、数回の空中給油を実施した。中近東の陸地に到達すると、護衛戦闘機や情報支援機と連携して機動飛行を行い、爆撃部隊はレバノン、シリア、イラク上空を通過した。【註:護衛戦闘機は、F-35、F-22の可能性が高く、情報支援機はISR(Intelligence Surveillance and Reconnaissance)機と表現されています。イラン攻撃に参加した戦闘機やISR機は、中近東担当の中央司令部傘下の部隊がB-2爆撃機が地域に近付いてから編隊に参加したと思われます。】

 米爆撃部隊がイラン上空に侵入する前のイラン時間22日0時30分頃、事前展開していた米潜水艦1隻が、イスファハンの核施設に向けてトマホーク巡航ミサイルを2ダース以上発射した。 米爆撃部隊がイラン上空に侵入するに際しては、爆撃機の前方を戦闘機が高高度を高速で飛行して囮行動をとると共に、フォルドやナタンツ近辺では地対空ミサイルに対して先制的な制圧作戦も行われた。 イラン時間22日2時10分から、B-2爆撃機7機が、フォルドとナタンツの核施設に対して、合計14発の大型貫通爆弾が投下し、トマホーク巡航ミサイルのイスファハン着弾を含めて、22日2時35分までに攻撃を終了した。 米攻撃部隊は、この間に超大型貫通談GBU-57爆弾14発を含む、合計約75発の精密誘導兵器を使用した。【註:GBU-57爆弾14発、トマホーク巡航ミサイル24発と仮定すると、残りの30数発は通常の空対地ミサイルで、イランの地対空ミサイル部隊に対する制圧作戦に使用されたと推定されます。】

 イランは虚を突かれたようで、作戦行動の間、イランの戦闘機は邀撃飛行を行わず、地対空ミサイル部隊は米爆撃部隊を把握していなかったと見られる。

 本作戦には125機以上の航空機と数百人が参加したが、参加航空機は、B-2爆撃機7機、第4・第5世代戦闘機多数、空中給油機数十機、潜水艦1隻、情報支援(ISR)機1群が参加した。 この作戦は、B-2爆撃機による史上最大規模の攻撃作戦であり、また、GBU-57爆弾を初めて実戦で使用した作戦であった。 この作戦は、わずか数週間の準備期間で実施されたものであり、米軍の比類のない作戦能力と広範囲な展開能力を示すものであり、世界の如何なる軍隊もこれを成し遂げることは出来ない。また、本作戦では、懸念していた作戦保全に関する規律が高く保たれた【註:作戦情報の事前漏洩がなかった】ことを誇りに思う。

 本作戦のイスラエルとの連携については、質問に答えて、イスラエル軍との関係は、イスラエルによる過去9日間の対イラン攻撃がイラン防空網を弱体化させて本攻撃の準備作戦としての機能を果たしたこと、本作戦行動の際に同一の作戦空域にイスラエル軍機が存在しないように調整したことの2点であって、本作戦はあくまで米国が計画し実行した作戦である。 【註:イスラエル軍は、本攻撃に先立つ6月13日から、イランの核施設・軍事施設に対する大規模爆撃、軍高官や核開発高官の暗殺攻撃などを行い、これに対抗してイランもミサイルやドローンでイスラエル攻撃を行いました。本攻撃後の6月24日には一応イランとイスラエルの停戦が合意されました。本作戦時には、イスラエルによる攻撃でイラン軍の防空能力は既に著しく弱体化していました。】

 なお、B-2爆撃機の乗組員は、現役の空軍兵とミズーリ州空軍の州兵で、階級は大尉から大佐。殆どの乗組員は、ネバダ州ネリス空軍基地の空軍兵器学校の卒業生である。乗組員には女性飛行士(報道によれば1人)が含まれていた。

2 フォルドの地下ウラン濃縮施設の爆撃(26日の記者会見)

【註:フォルドのウラン濃縮施設は、攻撃に対処するために地下深く建設されていますが、米軍はこれを超大型貫通爆弾であるGBU-57で爆撃しました。GBU-57は、総重量14トン弱(爆薬量は2.4トン以上)と極めて重く、高高度で投下されてから重力によって加速し、高速で地中を貫通した上で爆発し、地下施設を破壊しようとするものです。ケイン統合参謀本部議長は、フォルド施設に対するインテリジェンスなど、攻撃準備段階からの作業を説明しており、興味深いものがあります。】

 米国は2009年、画像その他の情報から、イランの山岳地帯にあるフォルドで巨大な地下施設の建設が進行中であると探知した。そこで、国防脅威削減庁の将校2名が同施設の解明任務を付与され、以来15年間2人はこの施設の解明と対策に取り組んできた。 【註:国防脅威削減庁(Defense Threat Reduction Agency)とは、1998年に国防総省の幾つかの組織を統合して発足した組織で、その任務は大量破壊兵器の脅威への対処です。任務の一つに、敵対勢力が大量破壊兵器を獲得し使用することを抑止すること、更には大量破壊兵器の拡散を阻止(=核兵器開発製造施設を破壊)する軍事作戦の支援も任務としています。公表資料によれば、職員数はシビリアン約1400人、軍人約800人であり、他に契約職員が約3000人います。予算は20億ドル以上です。】

 任務を付与された二人は15年間、地質、イランによる掘削作業、建設作業、天候、廃棄物、建設資材、建設資材の出元などを詳細に観察してきた。通気口、排気口、電気システム、環境制御システムなどの建設を観察し、そしてクレータを含む施設の隅々まで観察し、更に搬入されたあらゆる機器、搬出されたあらゆる機器を観察してきた。彼らは、当初から、フォルド施設の目的を知っていた。山の中に、遠心分離器などの設備を備えた多層にわたる地下施設を建設するのは、平和目的である筈がないのである。

 彼らは、分析の過程で、米軍にはこの標的を十分に破壊できる兵器がないことに気が付いた。そこで、軍需産業や技術者と協力してGBU-57爆弾の開発に取り組み、様々な試験や試行錯誤を繰り返した。そして、数百回の試験射撃を行い、実物大の模型標的に対して投下実験をして来た。 【註:二人の将校が、フォルドの地下核施設攻撃目的のために、15年間に亘って研究を継続し、加えて核施設破壊のため爆弾の開発にも携わっていたことが注目されます。通常、軍将校の異動は頻繁であり、真の専門性を高めるには適切ではないことが多いのですが、国防脅威削減庁においては、軍将校がシビリアンの専門家に近い長期勤務により専門性の獲得を達成していると見られます。】

 そして兵器最適化作業(Weaponeering)に取り組んだ。兵器最適化作業とは、標的に対して望ましい効果と最大限の破壊を達成するために、適切な兵器と起爆装置の組合せを決定することである。フォルドの場合、国防脅威削減庁のチームは、標的の機能を破壊するために必要な要素について高い確信を持って理解しており、GBU-57は任務空間で確実に効果を発揮するように設計され配備されていた。GBU-57の開発には、多くの博士が参加し、スーパーコンピュータを多くの時間を使って、モデリングやシミュレーションを行ったのである。

 フォルド爆撃に使用したGBU-57爆弾は、総重量3万ポンド(14トン弱)の爆弾で、B-2爆撃機から投下される。この爆弾は、鋼鉄、爆薬、信管(起爆装置)から構成されており、全ての爆弾の着弾角度、到達点、最終な方向、そして信管の設定はそれぞれ異なっていた。信管は標的内部で特定の効果を発するように特別に設定されており、信管の作動遅延が長いほど爆弾はより標的深く貫通して爆発する。

 GBU-57爆弾は、フォルドのウラン濃縮施設に二つある換気抗に向かって投下された。2008年6月に撮影された画像によれば、中央に排気口1つ、両側に吸気口2つの3つの口が一組となった換気抗が二つ確認されている。米軍の爆撃に至る前に、イランはこれらの換気抗をコンクリートで覆おうとしていた。 【註:報道によれば、本作戦前の数日間、イラン当局は、換気抗をコンクリートで覆い、また、地下トンネルの出入口を土砂で覆う作業をしていました。】【註:記者会見では、2つの換気抗の見取図もそれぞれ掲示されており、フォルド施設の地下の内部構造について、相当の情報を有していることが伺われます。標的を効果的に攻撃するには、単に標的の外表面を把握するだけではなく、地下を含む標的の構造全体を把握する必要があるということを示しています。】

 攻撃は、先ず第1撃でこのコンクリートの覆いを吹き飛ばし除去して換気抗を露出させ、続いて第2、3、4、5撃までの4撃は換気抗を秒速1000フィート(約300メートル)以上の速度で降下して、任務空間で爆発するように設計されていた。第6撃は先行する爆撃が上手く機能しなかった場合の予備であった。各換気抗に投下されたそれぞれ6発のGBU-57爆弾は、全て予定通りの場所に正確に着弾した。爆弾による損害は、爆風、破片、加圧という3つの作用によって生じるが、今回の攻撃では、任務空間における主な破壊メカニズムは、過圧と爆風の組合せがトンネルを突き破り、重要な機器を破壊するのである。

 損害評価については、統合任務部隊の所管ではなく、インテリジェンス機関の所管である。しかしながら、フォルド攻撃で既に我々が知っていることは、第1にGBU-57爆弾は適切に製造され、試験され、そして装填されたこと、第2に爆弾は計画通りの速度とパラメータで投下されたこと、第3に爆弾は全て意図した標的と意図した打撃地点に誘導されたこと、第4に爆弾は計画通りに爆発したことである。 【註:記者会見で公開された爆撃後の画像を見ると、換気抗付近には大きな爆発クレータは見られません。この事実から判断すると、GBU-57爆弾の爆発エネルギーは、地上に逆流せずにトンネル内から地下空間に波及したことが推定できます。従って、本爆撃が地下施設内に相当の損害をもたらしたことには、疑問の余地がないでしょう。】【註:国際原子力機関IAEA理事会に対するグロッシ事務局長の報告によれば、遠心分離機は極めて衝撃に弱く、爆発の衝撃によってフォルドにある遠心分離機には極めて重大な損害の発生が予想されるという。】

3 最後に

 ケイン統合参謀本部議長は、26日の記者会見において、世界中の我々の敵対勢力は、国防脅威削減庁の他のチームが、フォルド担当チームと同様に、時間をかけて標的を研究しており、今後も研究を続けるということを知っておくべきであると述べました。つまり、米国は、北朝鮮初め核兵器を開発している国の関係施設はいつでも攻撃できるように研究を続け、攻撃兵器開発を含めて準備をしているということです。 また国防脅威削減庁(Defense Threat Reduction Agency)の2022年頃のパワーポイント資料では、中国の脅威に対する取組を特筆しており、中国による大量破壊兵器の開発の解明その他の研究には、一番多くの資源が投入されていると推定できます。

【参考】イランの核開発における重要施設

 イランは濃縮ウランによる核爆弾の開発に取り組んでいると見られますが、ウラン爆弾を作るには、濃度90%以上の高濃縮ウランを製造して、次にそれを金属ウランに転換して製造することが必要です。イランは、ナタンツとフォルドに遠心分離機によるウラン濃縮施設を持ち、また、イスファハンには、ウラン濃縮用の遠心分離機の製造施設、金属ウランの製造施設があるほかイランの核燃料サイクルの中核となっています。 今回の作戦は、今まで無傷であったフォルド高濃縮ウラン製造施設に大損害を与えたほかに、既にイスラエル軍による攻撃で打撃を受けているナタンツとイスファハンの核施設にも駄目押しの損害を与えたと推定できます。

 なお、イランは既に純度60%以上の高濃度ウランを400キロほど保持しているとされ、これを90%以上に濃縮すれば、原子爆弾が9個分の製造が可能と言われていました。

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