特攻の軍事的合理性

 私は、特攻について勉強もせず、精神性は評価できる、どれだけの軍事合理性があったのか疑問であると漠然と考えていました。 

 特攻に関心を持った切掛けは、1980年代後半に外務省に出向し在イスラエル大使館で勤務した時の経験です。ある会合で、イスラエル国防軍情報部の将校が特攻をベタ褒めしたのです。彼はイスラム過激派の自爆テロとの関係で特攻を研究したとのことですが、先ず、イスラム過激派の自爆攻撃は民間人を標的にするテロであるが、特攻は純粋に軍事作戦である。次に、イスラムの自爆攻撃は利己的な行動であるが、特攻は利他的な行為である(イスラム教ではジハードによる殉教者は最後の審判で天国に行けるが、特攻は純粋に同胞のための自己犠牲である)。そして、特攻は軍事合理性がある有効な戦法であった。というものでした。

 日米戦争後半の日米の死傷者比率を見ると、殆どの戦場で日本軍が一方的に負けています。死傷者比率で、日本が対等又は優位にあったのは、ペリリュー島の戦い、硫黄島の戦い、そして沖縄戦位です。その中でも、航空特攻による死傷者(casualty)比率、死者比率(kill-ratio)を推定してみると、大雑把な推定ですが、死傷者比率で4倍以上、死者比率でも2倍近い戦果を上げています。つまり特攻では、死傷者比率でも死者比率でも日本軍が圧倒的に優勢であったことが分かります。

 それ故、米国の戦史研究家バリー・ビッドは「日本軍の特別攻撃がいかに効果的であったかと言えば、沖縄戦中1900機の特攻機の攻撃で実に14.7%が有効だったと判定されているのである。これはあらゆる戦闘と比較しても驚くべき効率である。」と述べ、スプルーアンス提督は「特攻は非常に効果的な兵器で、我々はこれを軽視することはできない。私は、この作戦地域内にいたことのない者には、それが艦隊に対してどのような力を持っているか理解する事はできないと信じる。」と述べているのです。

 特攻は軍事合理性のない無謀な戦法であったと考えている人もまだ多いと思いますので、トピックスに取り上げてみました。

 なお、冒頭のイスラエル国防軍将校に、万が一、戦争で不利な状況に追い込まれた場合には、イスラエル国防軍も特攻の様な戦法を取るのかと質問したところ、回答は、「無理だ。ユダヤ人は日本人ほど利他的ではない。」というものでした。

(特攻作戦を考案して遂行させた責任者が大西瀧治郎中将ですが、同中将が特攻攻撃を考案した真意について記載した本が、神立尚紀著『特攻の真意』(文春文庫)です。まだお読みでない方には御一読をお勧めします。)

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