ウクライナ戦争~UKUSA諸機関の実質参戦

 ロシア・ウクライナ戦争では、ウクライナに対する米欧諸国によるインテリジェンス支援の効果が大きいと見られますが、更に、米国NSAを初めとするUKUSAシギント諸機関は、ウクライナのサイバー防衛のために実質的に参戦しているようです。

 これについては、『正論』6月号での元米国家安全保障庁長官デニス・ブレア氏の貴重な発言があります。同氏によれば、ロシアのウクライナに対するサイバー攻撃は軍事攻撃以上に失敗しているとして、その理由に挙げたのが、①ウクライナ側の努力(重要な官民ネットワーク保護システムの導入)、②米国等支援国によるロシアの攻撃の無力化、③米国とウクライナ担当者の協力(共にサイバー情報を収集し防衛に当たっている)の三つを挙げています。

 特に注目されるのは、②のロシアの攻撃の無力化です。デニス氏は「米国をはじめウクライナの友好国や支援国は、ウクライナ側のサイバー防御に協力するだけではなく、ロシアの攻撃を直接無力化しています。」と述べています。これは要するに、米国初めUKUSA諸機関とサイバー軍が積極防禦(Active Defense)、前進防禦(Defending Forward)を通じて、ロシアの攻撃を阻止しているということでしょう。

 具体的には、NSA初めUKUSAシギント諸機関は、サイバー攻撃対策で既に10年以上前から「積極防禦」に取り組んできました。これは、事前に(攻撃してくる可能性のある)脅威グループを解明して、攻撃を受ける前に防禦対策を準備しておくものです。対策は当初は、守るべきシステムとインターネットとの結節点に事前に防禦システムを設置することでしたが、それでは不十分として2018年頃からは米国サイバー軍が「前進防禦」に取り組み始めました。これは脅威グループの攻撃を、インターネット空間、或は、敵空間(相手方のネットワーク内)において防禦することです。

 何れにしろ「積極防禦」のためには、事前に脅威グループのシステムに侵入して脅威を解明する作業が不可欠です。これは正にNSAなどシギント機関の平常任務であり、米国では更にサイバー軍もNSAと協力して取り組んでいる様です。この基礎の上に立って、戦争勃発を契機に、米サイバー軍とNSA、UKUSA同盟諸機関が、ロシアの脅威グループによる攻撃をインターネット空間で阻止し、或は相手のシステムを攻撃して阻止しているのです。(システムを攻撃された相手方は、どこから攻撃されたかは分からない筈です。)

 正に、インテリジェンス、特にシギントの重要性を示すものです。

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