2023年4月岸田総理襲撃事件について

 本年4月15日和歌山市で、岸田首相が選挙応援活動時にパイプ爆弾を投擲される事案が発生しました。6月1日には警察庁が報告書を公表し、事案の分析評価と対策を示しています。基本的に本報告書の通りであると考えますが、米国のシークレットサービスであれば、指摘すると思われる点を3点記載します。

(1)直近身辺警護員の任務分担について

 報告書によれば、総理の直近にいたSPはパイプ爆弾投擲の約2秒後には、パイプ爆弾を払い除け、約3秒後には同SPが総理の盾となる行動を取っています。つまり、同SPが脅威に立ち向かっている約1秒の間、他のSPで総理の直近に位置し米国SSのdetail leaderの役割(自分の体で警護対象者を覆い、そして連れ出す)を果たす者がいなかったということです。警察庁報告書は身辺警護員は迅速かつ的確に対応していると記述していますので、この点は問題ないと評価しているようです。しかし、それで良いのでしょうか。今回の事案では、この1秒間は違いを生みませんでしたが、もし、パイプ爆弾がその間に爆発していたらどうでしょうか。以前のトピックスでも紹介しましたが、米国のシークレットサービスは、この1秒の隙間を作らないために、detail leaderに対して、脅威に対抗するのではなく、ひたすら「自分の体で警護対象者を覆い、そして連れ出す」ことを任務としているのです。この1秒に対する考え方が、米国シークレットサービスと我が国警護の違いでしょうか。

(2)主催者の安全確保措置と警察庁の審査指導

 報告書によれば、本事案の最大の課題は、主催者側の安全確保措置で聴衆エリアには「関係者のみ入場させる」こととなっていたが、実際の入場規制が甘く犯人の侵入を許してしまったことです。その原因としては、県警と主催者間で参加者の識別方法や実施体制について綿密な協議が行われず、警察庁における事前審査でもその点を把握できなかったとしています。そこで今後は主催者側への要請を文書化・記録化するなどの対策を採るとしています。

 警護実施において主催者側の安全確保措置は極めて重要ですが、なぜこの点についての詰めが甘くなってしまったかを考えると、結局、警護の専門機関でもなく警護の場数も多くない中小府県警察では主催者側との安全確保措置についての調整ノウハウが蓄積され難いという現実があるのではないでしょうか。そこで、過去のトピックスでも述べましたが、米国シークレットサービスでは、警護の専門家であるサイトエージェントを(場合によっては数週間前に)現場に派遣して、行事主催者や地元警察の安全確保措置・警護警備措置の指導調整に当たります。当然、事前の合同実査にも立ち会い、行事主催者側の措置についても詰めをします。このような警護の専門家を中央から事前に派遣する措置は採れないものでしょうか。或る警護室OBは選挙期間中だけでも各管区局に数人の配置があれば大分変るのではないかと話しています。

(3)規制エリアの設定範囲について

 報告書では、聴衆エリアの出入管理、荷物検査、金属探知検査などの課題が指摘されています。しかし、出入管理等をするのは聴衆エリアとして設定された場所だけで良いのでしょうか。岸田総理は、聴衆エリア外の場所も歩き回っているのです。米国シークレットサービスであれば、総理車の到着場所から、歩行場所、演説場所まで総理の動線区域は、全て、規制エリア内としているでしょう。

 以上、数点所感を記載しましたが、今回の事案を契機として、更に我が国の警護が向上することを祈っています。

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