英国の地方警察を「自治体警察」と呼べるか?

 このトピックは、インテリジェンス関連ではないのですが、年来疑問を感じているテーマなので、ここに掲示します。それは、英国の警察制度は「自治体警察」が基本なのか、ということです。

 警察庁関係者の発言を聞きますと、英国の警察制度は「自治体警察」であるという発言をよく耳にします。昔読んだ警察の先輩が書いた本にも、英国は自治体警察の国であると記述されていました。英国警察の発祥を見ると、18世紀に地方の自治体が雇った警備員に由来するので、その時点では確かに「自治体警察」と言えるでしょう。しかし、現在でもそう呼べるのでしょうか。

 そこで、英国の警察について調べてみると、現在、英国の警察のタイプは大きく次の三つに分類されています。①地域警察Territorial police services:ロンドン警視庁を含むイングランドとウェールズの43の警察組織、それに北アイルランド警察、スコットランド警察が含まれます。②国家の法執行機関National law enforcement agencies。 ③その他の特殊な警察Miscellaneous police services。

 さて、ここで英国警察の主体である地域警察Territorial police servicesが、「自治体警察」と言えるのかということです。先ず、イングランドとウェールズ地方については、1996年制定の警察法が基本です。その内ロンドン警視庁は別格で、前世紀は内務大臣の指揮下にあり、2000年以降は直接的な監督者はロンドン市長に変更されていますが、任免権は依然として内務大臣が保持しています。その他、同地方の地域警察の多くは、複数の自治体を管轄しており、住民による直接公選の警察監督官(Police and Crime Commissioner)の監督下にありますが、警察費用の多くは内務省の交付金grantによって賄われています。更に、これらの監察組織としては、内務大臣に責任を有する警察・消防・救急監察官があります。また、イングランド・ウェールズ地方の警察官は、同地方全域において警察官としての職権を行使できます。従って、要人警護では、ロンドン警視庁の警察官が全域においてロンドン警視庁の業務として警護に従事できます(なお、スコットランドや北アイルランドにおいては「相互援助」の形式で、ロンドン警視庁の警察官が警護業務に当たることができます)。また、その他の特殊専門能力が必要な際は、それを有する地域警察組織の警察官が他地域に赴いて業務執行することもあります。

 スコットランド警察は、2012年にスコットランド議会が制定した警察・消防改革法によって、それまで8つあった地方警察を統合して2013年に一つの警察組織となりました。英国は連合王国ですから、スコットランドを一つの国と見れば、国家警察の成立とも言えます。同警察は、スコットランド政府の警察委員会の監督下にあります。北アイルランド警察は、2000年に英国議会が制定した北アイルランド警察法によって、北アイルランド警察委員会が管理しています。

 なお、2000年代には、イングランドの地域警察Territorial police servicesは小規模過ぎるということで、最小単位を4000人とするように統合するべしとの議論がありました。(日本で言えば、最小警察単位が4000人規模となるように、県境を越えて県警察を合併させるという議論です。)その結果、2006年には内務大臣が合併提案をしています。これは実現しませんでしたが、このような議論がされる地域警察を単純に「自治体警察」と呼べるのでしょうか。

 「自治体警察」を、米国のような「自治体が、自らの責任と権限において、設置し管理し運営にあたる警察」と定義すると、英国の警察が「自治体警察」ではないことは明白でしょう。英国の警察制度は、正に、地域住民の要請と国家的要請を折衷した英国独特の警察制度であり、これを「自治体警察」であると呼ぶことによって、英国警察制度に対する理解が深まるとは考えられません。これは我が国の警察制度についても同様です。我が国警察制度は、警察法によって規定されており、地方的要請と国家的要請の両者を折衷した我が国に独特な警察制度です。これを単に「自治体警察」と性格付けしては、我が国警察制度の独自性に対する理解は深まらないでしょう。

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