諜報機関の協力関係Give & Takeとは?

 最近、外国インテリジェンス機関との協力関係の基本はGive & Takeであることが、漸く我が国の政治家にも浸透してきたようです。しかし、その具体的内容についてはまだ理解が進んでいるとは言えません。そこで、ここでシギント機関同士の協力関係について記述します。

1 協力関係の基本はGive & Take

 スノーデン漏洩資料によれば、米国NSAの他国機関との協力は、「米国と相手国の国家諜報要求が交叉する場合」とされています。これは、協力がそれぞれの国家諜報要求の充足に貢献する場合という意味であり、即ち、国家の諜報要求の充足という面においてGive & Takeの関係が成り立つ場合にのみ協力するし、協力関係が進展するという原則を述べています。

 その具体的内容は、相手国に求めるもの、①地理的特性からする重要標的通信へのアクセス、②地理的分析能力、③特殊言語能力、④兆候・警告情報(Indication & Warning)収集に関する協力支援。米国の提供するもの、①シギント技術(ハードウェア、ソフトウェア、関連技術)、②地域全体、全世界についてのシギント情報とされています。

2 Give & Takeの例外

 但し、外国との協力ではGive & Takeの例外もあります。スノーデン漏洩資料では、危機的状況に於いては一方的なシギント支援があり得るとしています。つまり、危機的状況にある国を支援することに米国の国益が合致する場合には、シギント面だけを見ればGive & Takeは成り立たないが、国益全体の立場からシギント支援をすることがあり得るということです。正に、現在のウクライナ戦争におけるインテリジェンス支援です。ウクライナを支援することが、米国の国益に合致するという判断の下に行われているのです。

3 協力国はインテリジェンスの標的にしないのか。

 忘れてならないのは、米国の友好国や同盟国であっても、NSAの情報収集の標的であるという当然の事実です。UKUSAシギント同盟諸国以外の協力国、所謂サード・パーティは、NSAにとっては協力相手であると同時に標的でもあるのです。情報公開されたNSAの或る内部研究資料の表題は、「サード・パーティ諸国:パートナーにして標的」であり、この本質を明確に示しています。

 同資料には、「国家には友人も敵も存在しない。在るのは国家利益だけであると言われる」とか、「今日の友人や同盟国も、いつまでも友人や同盟国である訳ではない」などと記述されており、現実主義的な国際関係の理解が、国家関係の基礎とされています。即ち、シギント分野でも、国益が合致する限りで協力し、一致しない範囲では互いを標的として情報収集の対象とすることが当然とされているのです。(因みに、イスラエル、フランス、韓国は、西側でも対米諜報に積極的な国と評価されています。)

 なお、UKUSAシギント同盟諸国(米英加豪NZ)は極めて緊密一体化しており互いを標的としないことを合意していますが、スノーデン漏洩資料によれば、米国の至高の国益に資する場合は例外が認められる旨記載されています。これが、インテリジェンスの世界です。

 嘗て、我が国首相に関するNSA漏洩情報が報道されたことがありますが、仮にもし再びそのような事があった場合には、政府は、これが世界の現実だと国民を教育して欲しいものです。

(注)より詳しい論説は、『警察公論』第78巻8号64-68頁(立花書房)で、2023年1月25日まで閲覧可能です。

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