NSA・UKUSAのシギント・プラットフォーム

 「『UKUSAシギント同盟』とは?」では、米NSAは、UKUSAシギント諸機関と協力することによって、世界を覆うシギント収集拠点、シギント・プラットフォームを構築していると述べました。そこで、ここでは、2013年のスノーデン漏洩資料を中心に、そのシギント・データ収集の主要プラットフォームを見てみましょう

1 「プリズム」計画(Downstream)

 米国のIT企業のデータセンターからデータを入手するものです。米国IT企業は米国が世界のインターネット通信網の中心になっていることもあり、膨大なデータを保持しています。協力企業は、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、パルトーク、ユーチューブ、スカイプ、AOL、アップルの9社です。Gメール、ヤフー・メール、ホットメールなどにもアクセスできます。米国以外のUKUSA諸機関も、IT企業の国内のデータセンターから一定の方法で、データを入手していると推定できます。 

2 通信基幹回線(Upstream)

 米国内外の世界のインターネット通信基幹回線の主要ポイントで、関係国の協力を得て或いは関係国に秘匿して、データを収集しています。2013年スノーデン漏洩資料に拠れば、約20の収集プログラムがありますが、1つのプログラムには多くの「子プログラム」が含まれているため、収集拠点は相当な数になります。具体的にはNSAが米国内の多数の拠点で収集している他、英国内ではGCHQがNSA以上に大規模に収集しています。欧州の仏独、デンマーク、スウェーデン、ポーランドでも収集していました。更に、キプロス、オマーン、アフガニスタン、シンガポール、フィリピン、韓国、メキシコ、バハマなどでも収集していたと推定できます。加豪NZも当然収集しているでしょう。この他にも収集拠点は世界中に広がっています。

3 外国通信衛星の傍受(FORNSAT)   

 世界の12箇所に主要基地を置いて、巨大なパラボラアンテナを建て衛星通信を傍受しています。主要基地が置かれている国は、米国、英国、豪州の他、キプロス、オマーン、タイ、フィリピン、そして日本です。Wikimediaで検索すると、英国メンウィズ・ヒルや三沢米軍基地で多数のレドーム(受信用アンテナの覆い)が見られます。

 この他に、アンテナは小型ですが、次のSCS(特別収集サービス)でも、世界約40箇所の在外公館を拠点に収集しています。

4 特別収集サービス(SCS:Special Collection Service)

 NSAとCIAによる共同事業で、世界の米国大使館や領事館80箇所以上に受信アンテナを秘匿設置して収集しています。通信傍受の標的選定などで現地でCIAと協力して作戦を進めています。ドイツのメルケル首相の暗号携帯電話が盗聴されていたのは、ニュースで報道され注目されました。2013年時点の収集拠点は、欧州で23か所、中近東19か所、アフリカ10か所、南アジア8か所、東アジア12か所、中南米16か所でした。国としては、独仏伊、ロシア、ウクライナ、シリア、イラク、パキスタン、インド、中国、台湾などへの拠点設置が注目されます。また、GCHQなど他のUKUSA諸機関もそれぞれ在外公館に同様の収集拠点を設置していると推定できます。

5 コンピュータ網工作(CNE:Computer Network Exploitation)

 いわゆるハッキングによるデータ収集です。NSAではTAOと呼ばれる組織が担当しています。手法としては、インターネット回線を通じて侵入する「遠隔侵入」と、製品供給網工作や建造物侵入などを伴う「近接侵入」の2種類があります。「近接侵入」には米国外での作戦に従事する専門組織Expeditionary Access Operationsも存在します。TAOが侵入したシステムは2013年末時点で既に10万近くと推定されています。余りにも侵入システムが多くなったので、操作員不要の自動データ収集システムを開発していました。

 サイバーセキュリティ対策では、積極防禦(Active Cyber Defense)が知られるようにないましたが、積極防禦とは、「脅威を事前に把握し、事前に対抗措置を採ること」です。脅威の事前把握には、ハッカー容疑集団のシステムに侵入(ハッキング)して、彼らが何時どの様な攻撃をどの標的に対して行うのか把握する必要があります。ここではTAOによるコンピュータ網工作CNEが重要です。脅威を事前に把握したら、システムのインターネット接続点で事前に防禦態勢を敷くのです。ところが最近は、前進防禦(Defending Forward)へと移行しています。従来型の積極防禦では被害防止に十分でないので、攻撃を受ける前に、自己のシステム外で、端的にはハッカー集団のシステム内やインターネット空間で攻撃を無力化しようというのです。こちらの方は、米国ではサイバー軍が取り組んでいます。

5 シギント衛星・機上収集(Overhead) 

 NSAは宇宙や上空からもデータを収集しています。シギント衛星やシギント航空機によるデータ収集です。米国のシギント衛星にも、幾つかの種類があります。赤道上静止衛星、長楕円モルニア軌道衛星、低軌道エリント衛星など各種のシギント衛星を使って、携帯電話や無線通信、マイクロ波多重通信、テレメトリー信号、更にはレーダ波など多様な信号を収集しています。

 また、航空機による機上収集では、空軍RC-135というNSAの運用する総合シギント機が有名ですが、その他にも海軍のEP-3E、陸軍のRC-12やEO-5C/ARL-Mなどの各種シギント機があり、無線通信の傍受や地上レーダの探知特定能力を持っています。更にGlobal Hawkなど各種の無人偵察機は画像撮影能力と共にシギント収集機能も付加されています。 ウクライナ戦争では、東欧諸国や黒海で航空機による収集が行われていますが、ロシア戦闘機による威嚇妨害行為が報道されています(2022年9月英国のRC-135の近辺でミサイル発射。2023年3月米無人偵察機MQ-9に接触)。

7 従来型収集

 20世紀に主流であった収集方法です。「像の檻」と呼ばれる巨大受信アンテナを世界各地に設置して、短波帯を中心とする無線通信を傍受していました。現在は、短波通信の重要性が低下したので、受信基地は縮小しているようです。

8 潜水艦や水上艦艇における収集

 海軍の潜水艦を使った秘匿の通信傍受や水上艦艇によるシギント・データの収集もしています。水上艦艇は、嘗てはシギント専用船もあったのですが、現在は、通常の海軍艦艇にシギント収集システムを搭載しているようです。

(注)詳しく知りたい方は、拙著『米国国家安全保障庁の実態研究』(警察政策学会資料第82号、2015年9月)37-104頁を御覧下さい。

2 thoughts on “NSA・UKUSAのシギント・プラットフォーム

  1. 大学卒業後でも、茂田先生のインテリジェンスに関する研究を参照することができて、大変光栄です。

    定期的にチェックさせていただいております。

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