米「外国代理人登録義務違反」によるスパイ摘発

 2022年10月に広報された中国の工作員や協力者の摘発事例を通して、米国の罰則「外国人登録義務違反」の適用を見てみましょう。

 「外国代理人登録義務違反」とは合衆国法典18篇951条の規定で、米国は外国政府の代理人として活動する者に対して、司法長官への届出を義務付けており、これに違反した場合は10年以下の拘禁刑又は罰金刑を科すというものです。外国の工作員や協力者は外国の政府のために働く代理人ですから、それさえ立証できれば、他に法律違反がなくても本条違反となるのです。また、スパイ活動には、情報収集の他にも、次の事例で見る「キツネ狩り」、更に偽情報を拡散して世論に影響を与える情報作戦、他国政府に働きかけて一定の政策を選択させようとする積極工作、他国国内での暗殺や実力行動、その他様々な活動形態があります。外国工作員・協力者の取締規定としては、「外国の代理人に登録義務を課し、その違反を罪に問う規定」は、合理的な規定と言えるでしょう。

 また、マネロン罪も同時に適用される場合が多いようです。即ち、同法典18篇1956条(マネロン)は、違法行為のために米国内と米国外の間で資金を移動させた者は、20年以下の拘禁刑又は罰金刑を科すと定めています。従って、外国の工作員・協力者が「外国代理人登録義務違反」という違法行為のための活動資金や報酬を国外から受領すれば、本条違反となります。それでは具体的事件を二つ見てみましょう。

(1)ニューヨーク市在住中国人2人の逮捕

 FBIは、2022年10月にニューヨーク市在住の中国人・安全忠An Quanzhong(55才男A-1)と安廣陽An Guangyang(34才女A-2)を逮捕しました(中国人名はアルファベット表記ですが、最も可能性の高い漢字に変換表記しています)。A-1はホテル経営に関わるなどビジネスマンですが、同時に中国の政治協商会議常務委員でもあります。2人は、中国の山東省規律検査委員会の指揮下に、在米中国人Xや息子Yなど家族に対して中国への帰国を強要する活動をしたのです。この帰国強要は、中国共産党による「キツネ狩り」作戦の一環で、海外に逃亡した中国人を本国に召還するものでした。

 なぜZやYが「キツネ狩り」の対象となったかは分かりませんが、先ず山東省規律検査委員会の職員・侯学信Hou Xuesin52才が、2017年にYに帰国を強請する書簡を送付して帰国しないと重罰を受けるだろうと脅しました。また、翌2018年には、Xの親戚のZ(山東省の税務署職員)を、上司の税務署副署長・袁偉東Yuen Weidong55才の付添いで訪米させ、Yと面会して帰国説得を試みました。それでもXが帰国しなかったため、山東省の規律検査委員会の指示を受けたA-1が、2020年、2021年、2022年と度々Yと面会して、Xを帰国させるように説得活動をしました。その際、帰国しなければ、米国での生活を妨害するぞ、中国の親戚全てが痛い目にあうぞ、などと脅迫したのです。

 そこでA-1とA-2が逮捕されたのですが、罪名は「外国代理人登録義務違反」と「マネロン」です。また他に、山東省の規律検査委委員会の職員4人と税務署副署長1人が被疑者不在のまま起訴され、写真付きで指名手配されました。

 本事件の捜査経緯を推定すると、先ず、A-1から帰国を強請されたXとYがFBIに相談したのでしょう。その後は、FBIの指導を受けながらA-1と対応することとなります。そして、YはA-1との面談ではICレコーダーで全会話を記録し、その際にFBIの指導に従ってA-1が山東省の規律検査委員会の指示を受けて活動している供述を引き出したのです。これで外国代理人登録義務違反の立証が可能となりました。更に、FBIの捜査によって、A-1に中国から活動資金又は報酬が送金されていることも把握したのです。

 A-1は最高30年の拘禁刑、A-2は最高20年の拘禁刑に処せられる可能性があります。このように「外国代理人登録義務違反」「マネロン」の罰則規定は、外国の工作員や協力者を摘発する上で極めて有効な規定です。

(2)中国国家安全部員3人などの指名手配

 同じく2022年10月米司法省は、中国の国家安全部員3人とその協力者1人を、長期間に亘って米国内に中国の協力者網を構築しようと活動していたとして、被疑者不在のまま起訴し写真付きで指名手配をしました。起訴された4人の罪名は、「外国代理人登録義務違反」の共謀罪です。刑罰は、5年以下の拘禁刑又は25万ドル以下の罰金刑です。

 さて国家安全部員の3人とは、王林Wang Lin 59才、董廷Dong Ting 40才女、畢宏偉Bi Hongweiですが、彼らは対米工作のために山東省青島の中国海洋大学・国際研究所(所長、王林)という研究組織を偽装していました。彼らは、研究交流を隠れ蓑にして、米国の大学教授や連邦法執行機関や国土安全保障機関の元幹部に接近しては、全額費用持ちで訪中に招待するなどして、機微な情報を入手しようと画策していました。例えば、元連邦法執行職員の大学教授に対する工作があります。王林や董廷は、先ず2008年に、北京オリンピックのセキュリティ評価を名目に中国旅行に招待し、そこで、米国の機微な指紋技術の提供や聖火マラソンへに対する抗議行動の阻止を要求しました。また2018年には、再度全費用持ちで中国旅行に招待して7000ドルを支払い、そこで中国のための情報収集と中国企業とのコンサル契約の締結を要求しました。

 或は、米国ニュージャージー州在住の米国永住権を持つ中国人との関係があります。王林と畢宏偉は、2016年4月協力者を介して同人をカリブ海の観光地バハマ諸島に呼出し、そこで米国内での工作資金の運搬を指示し実行させました。

 これらの事例に見るように、米国外から米国人・永住権者を対象に工作を仕掛ける行為も、「外国代理人登録義務違反」で取締りができるのです。

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