同じ法令に基づき、同じ傍受システムを使い、傍受システムを共用し、且つ、同様のデータを収集していても、NSAとCIAの実施する行政通信傍受はインテリジェス活動たるシギント活動、FBIの実施する行政通信傍受は、インテリジェス活動ではあるがシギント活動ではない!!!
最近、驚くべきことに気が付きました。それは、FBIがFISA(Foreign Intelligence Surveillance Act対外諜報監視法)に基づいて行う行政通信傍受活動は、インテリジェス活動ではあるのですが、米国政府の定義によれば、何と、シギント活動とは位置付けられていないのです。ところが、一般的な米国人はこれを知りません。ちょっと、不思議な話です。 では、その中身と背景を分析してみましょう。
(1)FBIもNSAもCIAも、現実には同じ行政通信傍受活動をしている。
FBIもNSAもCIAも、同じ法律に基づき、同じ傍受システムを使い、同様のデータを収集しています。先ず、同じ法律とは、FISA(Foreign Intelligence Surveillance Act対外諜報監視法)で、これは米国内における行政傍受を規制する法律ですが、FBIもNSAもCIAも米国内で行政通信傍受をするには同法の規定によって活動しています(FISA第1章に基づく収集とFISA702条に基づく収集が基本)。
次に、実際の行政傍受活動を見ます。例えば、2013年のスノーデン漏洩情報で有名になった「プリズム」計画(米国内の電子通信サービス事業者の米国内データセンターからのデータ収集)を挙げると、この通信傍受はFBI、CIA、NSAの三者が緊密に連携して行っており、この三者のチームスポーツだと形容される程のものです。且つ、関係企業のデータセンターからのデータ取得装置は、FBIの「データ傍受技術ユニット(Data Intercept Technology Unit、通称DITU)が設置管理しているのです。また、米国内の通信基幹回線からのデータ収集の1つに「ブラーニー」計画(全米で30社以上の企業の通信回線からアクセス拠点70ヵ所以上でデータ収集)がありますが、これにも、FBI、NSA、CIA三者が関与しています。このように、米国内における通信傍受では、FBI、NSA、CIAの三者は同様な行政傍受活動をしているのです。
(2)米国一般国民も、FBIはシギント活動をしていると理解している。
このように、FBIもNSAもCIAも米国内で同様な行政傍受活動をしている訳ですから、米国一般国民は、FBIによる行政通信傍受活動をシギント活動と考えています。試しに、ChatGPTで、米国でシギント活動をしている政府組織は何かと質問してみると、NSA、CIA、NRO(国家偵察局:シギント衛星を管理している)、軍インテリジェンス機関などと並んで、FBIが出てきます。ChatGPTの答えは、英語の言語空間における文献の平均値を表しているものですから、英語の言語空間では、一般にFBIはシギント活動をしていると理解されていると判断できるでしょう。
(3)FBIによる行政通信傍受はシギント活動に位置付けられていない。
ところが、米国政府においては、FBIによる通信傍受は、シギント活動とは位置付けられていません。例えば、2023年6月に制定されたFBI文書「Federal Bureau of Investigation Executive Order 14086 Implementing Policies and Procedures」では、その序文でFBIはシギントを収集していないと明確に記載しています。つまり、FBIの行政通信傍受は、インテリジェンス活動ではあっても、シギント活動ではないと定義されているのです。
(4)背景
FBIの行政通信傍受がシギントに位置付けられていない背景には、20世紀半ば以来の歴史的経緯があると考えられます。
コミント(現在のシギント)は対外諜報として極めて重要であるため、コミント機関をどう構築し運営するかについて、国防総省、陸海空軍、国務省、CIAなど利害関係諸機関の大きな関心事でありその間に軋轢もありましたが、漸く1952年11月に国家シギント機関NSAが発足しました。その際に発出された「国家安全保障会議インテリジェンス指令第9号 コミント」はコミント委員会を設置して、NSAの運営やNSA以外の諸組織によるコミント活動の調整などについてコミント委員会の任務などを規定しています。
他方、当時、FBIは専ら国内において安全保障のために活動するもので、NSAや他のシギント諸組織とは役割が異なると主張して、このコミント委員会の調整統制はFBIの活動(つまりFBIによる行政通信傍受)には及ばないと主張したと推定されます。その結果、1952年12月には同指令が改正され、その最後尾に「本指令は、FBIの対内安全保障に関する特有の責任と権限を侵害するものではない」という規定が追加されています。つまり、この規定によって、コミント委員会の権限はFBIの行政傍受には及ばないこととされたと推定できます。
先にも述べたように、「プリズム」計画や「ブラーニー」計画など、米国内の行政通信傍受では、FISAという同一の法律に基づいてFBIもNSAも一緒に同様の行政通信傍受活動をしています。ところが、FBIによる行政通信傍受は、インテリジェンス活動ではあるが、シギント活動ではないという、一見不思議な定義となっていますが、それにはこのような背景があったのではないでしょうか。