自民・維新の連立合意「インテリジェンス強化策」の評価(1)

 高市自民党内閣は、インテリジェンス強化に向かって具体的に作業を開始しています。高市首相は、2025年9月総裁選出馬の政策発表記者会見で「インテリジェンス関係省庁の司令塔としての国家情報局の設置」を明言し、また、内閣発足に当たり、木原官房長官に対する指示書で「国家情報局」創設の検討を指示しています。 高市内閣は、同年10月の内閣発足に当たり『自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書』を締結し、その中で実施すべき12項目の5番目に「インテリジェンス政策」を掲げました。その内容は、冒頭でインテリジェンス強化が急務であるとの認識の共有を表明し、実行すべき政策5つを掲げています。

① 「国家情報局」と「国家情報局長」(令和8年通常国会で実現)

② 「国家情報会議」設置法の制定(同上)

③ 「対外情報庁」の創設(令和9年度末まで)

④ 省庁横断的「情報要員養成機関」の創設(同上)

⑤ スパイ防止関連法制の策定と成立(令和7年に検討開始)

 高市内閣のインテリジェンス強化策は、この連立合意書を基に実行されていくものと考えられます。但し、政権合意書は簡略であり、組織運用を含めた具体策までは記載されていません。自民党の公式文献にも、インテリジェンス強化について踏み込んだ具体策は見当たりません。これに対して、日本維新の会の安全保障調査会は、2025年10月に「『インテリジェンス改革』及び『スパイ防止法』(仮称)の策定に関する中間論点整理」(7頁)を発表しており、連立合意書はこの「中間論点整理」を基に作成されたものと思われます。更に、元国家安全保障局長の北村滋氏が、その著書『国家安全保障とインテリジェンス』(2025年)「5章 内閣の情報機構の現状と課題」で内閣の情報機能強化の具体的提言をしており、自民・維新ともに同提言を参考にしていると思われます。

 そこで本稿では、維新「論点整理」と北村氏著作を参考に、連立合意書の5つの政策について、2回に分けて(今回は①と②について)解説し、評価を述べます。なお、政府の法案作業については現時点(2026年1月11日)までの報道を基にしています。

1 「国家情報局」と「国家情報局長」の創設

 連立合意書は、内閣情報調査室と内閣情報官を格上げして「国家情報局」と「国家情報局長」を創設し、「国家安全保障局」と「国家安全保障局長」と同格とすると記述しています。 ここで言う「同格」の内容について、北村氏は、現在の内閣情報官の権限について、国家安全保障局と対比して欠落しているものとして、①各省庁が持つ情報へのアクセス権と、②インテリジェンス関係省庁に対する総合調整権を挙げています。

 即ち、内閣情報官は、内閣法19条によって、内閣官房長官、内閣官房副長官と内閣危機管理官の単なるスタッフ職として位置付けられており、インテリジェンス関係省庁に対する情報アクセス権や総合調整権などの権限を全く付与されていません。これに対して、国家安全保障局長は、内閣法16条によって、内閣官房長官と内閣官房副長官のスタッフ職として位置付けられているものの、同時に、国家安全保障に関する基本方針や重要事項についていの企画、立案及び総合調整に関する事務を掌理するとされており、関係省庁に対する総合調整権を有しています。また、国家安全保障会議設置法6条で、関係省庁は資料・情報の提供説明義務を課されており、国家安全保障局は同会議の事務局として、関係省庁の資料・情報に対するアクセス権を保持しています。このように、内閣情報官と国家安全保障局長の権限には大きな差がみられます。

 ところで、情報アクセス権と総合調整権は、内閣のインテリジェンスのまとめ役には不可欠の権限です。情報アクセス権については、対外政策、安全保障、危機管理の基本に係わる情報を内閣に集約するには、それを担保する仕組として国家情報局に各省庁が持つこれら情報へのアクセス権を保障することが必要です。各省庁が持つ情報にアクセスせずに、情報を集約することは出来ないからです。また、総合調整権については、インテリジェンス・コミュニティ省庁が相互に緊密な連携を実現するには、同コミュニティの代表者である国家安全保障局長が情報収集や分析面で関係省庁に対する総合調整権を保持することが必要です。

 報道(産経新聞1月10日付「国家情報局 外国機関と連携」等)によれば、情報アクセス権については、政府は国家情報会議を設置して各省庁に同会議への資料・情報提供を義務付ける方向で調整中のようであり、そうなれば国家情報局はその事務局として各省庁の情報へのアクセスが可能となります。総合調整権については、現時点での政府案は報道されていませんが、維新「中間論点整理」では、「国家情報局長に、予算編成権と人事権を付与すること」とされています。これがインテリジェンス関係省庁の予算編成や人事に関する調整権を意味するとすれば画期的なことですが、関係省庁の強い抵抗が予想されます。国家安全保障局長並みの、インテリジェンス活動に対する一般的な総合調整権の記述に留まるとしても、仮に法制化されれば、現状からすれば大きな前進となります。

 なお、米国インテリジェンス・コミュニティの代表である国家諜報長官DNIは、関係省庁に対して行政命令(Intelligence Community Directives:ICDsが主)を発する権限を持ち、「国家諜報計画」(National Intelligence Program)予算編成権、人事権、諜報活動の優先順位や規準の設定、収集任務付与、セキュリティ・クリアランスや秘密保全など、幅広く且つ強力な権限を保持しています。これに対して、大統領首席補佐官や安全保障担当補佐官は、実務上は大きな影響力を行使していますが、その地位はあくまで大統領のスタッフ職であって、関係省庁間の政策調整などに関して法令上の権限を有する訳ではありません。

 つまり、関係省庁との関係では、米国の国家諜報長官は幅広く強力な法令上の権限を持っているのに対して、大統領補佐官は法令上の権限は全く持っていないことが特徴です。他方、我が国では、国家安全保障局長は法令上の権限を持っているのに対して、内閣情報官は法令上の権限を持っていないのです。今回の改革は、国家情報局長に対して、国家安全保障局長並みの法令上の権限を付与しようとする試みと言えるでしょう。

2 「国家情報会議」設置法の制定

 連立合意書は、現在の「内閣情報会議」(閣議決定事項)を発展的に解消し「国家情報会議」を設置する法律を制定すると記述しています。 これについて維新「中間論点整理」には記述がありませんが、北村氏の提言は、現行の内閣情報会議は、閣議決定で設置された官房長官が主宰する関係省庁の次官級の会議体ですが、法律を制定してこれを閣僚級の会合に格上げすべきであるとしています。そして、国家情報会議を、年次情報評価書、年次及び中長期情報活動計画の審議決定機関とするべきであり、また、この場を通じて国家情報局長の総合調整機能を強化することが不可欠としています。

 報道によれば、政府は通常国会で国家情報会議設置法を制定して、同会議がインテリジェンスに関する基本方針を決定したり、重大事案の総合分析や評価を行ったりすることを検討しているようであり、正に北村氏の提言と方向性が一致しています。

 ところで米国では、インテリジェンスに関する高位の会議体としては、合同諜報コミュニティ評議会(Joint Intelligence Community Council: JICC)と国家諜報評議会 (National Intelligence Council: NIC)の二つがあります。前者JICCは、国家諜報長官に対する諜報コミュニティ運営についての助言機関です。法律によって設置されており、議長は国家諜報長官で、メンバーには国務長官、国防長官、司法長官、国土安全保障長官がいるなど、いわば閣僚レベルの調整会議です。他方、後者NICは、国家諜報長官の指令によって国家諜報長官室内に設置された戦略的統合分析組織です。高位の政策決定者のため、「国家インテリジェンス評価書」(National Intelligence Estimates: NIEs)や「戦略的分析・将来予測」(Strategic Assessments & Forecasts)など、諜報コミュニティを総合した中長期の戦略的な分析の提供を任務としています。NICが国家諜報長官室の内部組織として設置されている理由は、インテリジェンス分析から政治的影響を排除して、分析評価の客観性中立性を確保するためです。 

 北村氏の提言では、我が国の国家情報会議は、米国のJICCの諜報コミュニティ運営に関する機能とNICの戦略的統合分析の両者の機能を合わせて持つようですが、年次情報評価書などの情報分析の客観性や中立性が政治的配慮によって損なわれることがないように、その運営においては工夫が必要と考えられます。

3 まとめ

 報道に拠れば、政府は国家情報会議設置法など所要の法律制定によって、国家情報会議と国家情報局を創設し、その権限の規定の仕方は、国家安全保障会議と国家安全保障局と並行的な同格のものにすることを考えているようです。

 これによって、国家情報局長の権限は、現在の内閣情報官の権限と比べて関係省庁の情報へのアクセスを確保できるなど強化され、インテリジェンス・コミュニティの代表者として機能し易い仕組ができることとなります。 但し、既述したように、米国の国家諜報長官の権限と比べれば雲泥の差であり、まだ十分なものとは言えませんが、我が国の国情を考えれば、インテリジェンス強化の一歩としては妥当なものと評価できるでしょう。

 なお、国家情報局創設という穏当な内閣の情報機能の強化について、屋上屋を架するものではないかと、一部の外務省高官OBが消極論を述べていますが、残念なことです。

自民・維新の連立合意「インテリジェンス強化策」の評価(2)

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