ハマス・イスラエル戦争に思うこと

 イスラエルでの勤務経験者として、現在進行中の戦争には無関心ではいられません。10月11日までの報道を基に、感想を記載します。

1 今次戦争の状況

 10月7日土曜日にガザを支配するハマスが、突如イスラエルに対する攻撃を開始しました。初日にロケット弾3000発以上をイスラエル領内に打ち込むと共に、ハマス戦闘員1500人以上がガザとイスラエル領を隔てるフェンスを各所で破壊してイスラエル領内に侵入、境界沿いの村、野外音楽会場など各地でイスラエル人1200人以上(大部分は民間人、兵士155人)を虐殺し、150人以上をガザに拉致したと報じられています。まさに、テロ行為です。

 これに対してイスラエルは、即座に領内でのハマス戦闘員の掃討作戦とガザ地区内のハマス拠点への爆撃や砲撃作戦を実施しています。イスラエル領内ではハマス戦闘員1500人の遺体が残され、また既に、ガザの住民1100人以上(民間人とハマス戦闘員)が死亡した報道されています。更に、イスラエル政府はガザ地区内のハマスを本年中に壊滅させると宣言して、予備役36万人を動員しました。部隊はガザ周辺に集結しつつあり、やがてガザに侵攻してハマス掃討作戦を実施するでしょう。そして、その過程で更に多くのガザの民間人が殺害されるでしょう。これは、イスラエル軍にとっては軍事作戦に伴う已むを得ない付随的損害(collateral damage)ですが、ガザ住民は、民間人虐殺と捉えるでしょう。

 中近東の人々は力の信奉者ですから、右の頬を打たれて左の頬を差し出す者は生きていけません。右の頬を打たれたら、打った者の左右の頬を打ち返し、更に袋叩きにするようでなければ、生きて行けないのです。従って、イスラエル陸軍のガザ侵攻は不可避でしょう。そして、それこそハマスの狙いでもあるのです。

2 相容れない世界観と正義

 そもそも、イスラエル在住のユダヤ人とパレスチナ人では、世界観と正義の定義(イデオロギー)が異なります。非常に簡略化して述べると、ユダヤ人の立場では、ユダヤ人は2000年の流浪の歴史の中で世界中で迫害され、遂に20世紀にはヒットラー・ドイツに600万も虐殺されました。そこで、神がユダヤ民族に約束した土地であるカナーンの地に帰還して、苦労して国土を開発し産業を発展させ近代民主国家を建国したのです。従って、イスラエルが存在する土地は当然ユダヤ人のものであると考えます。これに対して、パレスチナのアラブ人の立場では、彼らこそ代々パレスチナの土地で暮らしてきた正当な権利者です。ところが、欧州で迫害されてきたユダヤ人が勝手にパレスチナに入り込んできて、1948年のイスラエル建国のドサクサに紛れて、パレスチナ人から土地を取り上げた侵略者であり、帝国主義者であるということになります。世界観と正義が異なるのですから、両者の和解と共存は容易なことではありません。

 昔はイスラエルを訪問するような国会議員はいなかったのですが、私のイスラエル在任中の1980年代後半に漸く野党の著名な某国会議員が訪問してきました。パレスチナ紛争についてレクチャーの依頼があり、ユダヤ人とパレスチナ人の立場の違いや和解が容易ではないことを詳しく説明したのですが、国会議員の最後の言葉は、「そうは言っても、なんとか両者譲り合って、紛争を解決することはできませんかねえ。」でした。正に日本の村落共同体の発想です。その互譲の精神、共同体という共通基盤がないから、紛争が続いているのです。

 それでも、イスラエルのユダヤ人の中には、自己の世界観と正義を信じつつも、パレスチナ人の立場(ユダヤ人は新参の侵入者である)も理解する人もいました。建国第一世代の移住者には、そういう人が多かったような気がします。しかし、年月が経ち建国第一世代も減少して、ユダヤ人の世界観と正義を無条件で信じる人が増えているのだと思います。最近のイスラエル政治にはそれが反映され、ネタニヤフ現首相など右派政権が続くようになりました。そして、西岸への入植地拡大(パレスチナ人にとっては侵略拡大)政策をとっています。

 他方、パレスチナ人、特にガザの住民は巨大な隔離施設に収容されているようなもので、将来に希望を持てず、益々過激化し、テロ組織であるハマスの支配力が強まっています。

3 解決策は?

 相容れない世界観と正義を持つ二つ民族が対立した場合の解決策は、旧約聖書の時代であれば一方の絶滅です。旧約聖書の時代であれば、ガザのパレスチナ人を(物理的、或は文化的に)絶滅させて終結となるのです。しかし、この解決策は現代では取ることができません。イスラエルは「民主主義国家」ですし、最大の支援者である米国もそれを許さないでしょう。

 敗者を絶滅できなければ、戦争の勝者は敗者に”peaceful peace”を提供しなければなりません。第2次世界大戦における米国の行動には種々問題がありました(対日戦争挑発、東京大空襲や広島長崎における民間人大量殺戮などの戦争犯罪)が、それでも日米友好が成り立つのは、種々の要因はあるにしろ、米国が”peaceful peace”を提供したからでしょう。しかし、イスラエルは今後も”peaceful peace”を提供できないと思います。それができるのは米国だけです。米国がイスラエルに譲歩させて”peaceful peace”を提供させ、我が国を含む諸国が、西岸ガザのパレスチナ人に大規模支援をして生活向上に貢献する。希望を持てる未来をつくる。解決策はこれしかないと思いますが、米国がイスラエルに大幅譲歩を求めることは、当面望めません。

 従って、ハマス・イスラエル戦争は紆余曲折はありながらも、益々、泥沼化していくのではないでしょうか。

4 我が国への教訓

 今回の戦争から我々が学ぶべき教訓は、先ず、日本人がパレスチナ人のような運命に見舞われないようにすることです。そのためには、国民が国防の義務を引受け、真の国防軍を建設すること、セキュリティ・サービスや国家シギント機関を創設するなど、国家の安全保障体制を整備することでしょう。そして次に、余力があれば、パレスチナ人の民生向上の支援をすることではないでしょうか。

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